神前結婚式には、他のさまざまな神事でも行われている作法が登場します。私たちは、それらを単なる儀式として受け流しがちですが、そのルーツをたどると、なかなか意義深いものであることが理解できるでしょう。神前結婚式の式次第は、式場によって相違がありますが、ここではユウベルグループの結婚式場での式次第を追いながら、一般的神事と神前結婚式の意味を考えていきます。
修祓(しゅばつ)の儀

祓詞
〔図1 〕祓詞

 一同が着席に続き、祭員(神職)らが入場し、式が始まります。斎主の拝礼に合わせて、一同が神前に一拝します。”拝“とは深いおじぎのことで、参列者もできるだけ丁寧に頭を下げます。
 ”修祓の儀“とは、神事の前に行うお清めで、祓詞
(はらえことば)を唱えることによって災厄やけがれをはらい浄める意味があります。
 ところで、結婚式での唱え言葉には、大きく分けて祝詞
(のりと)と祓詞があります。祝詞は、神に申し上げる言葉で、個人の幸福や社会の安泰を願うというような含意を含むものです。祓詞は、神事の前提となるお祓い(修祓)をするもので、神職や参列者のお祓いを行うための唱え言葉です。祝詞は別項で紹介します。
 神殿には大麻
(おおぬさ:榊の枝に紙垂を付けたもの、または白木の棒に紙垂(しで)をつけたもの)が置いてあり、この前で祓詞が唱えられます。祓詞は〔図1〕のようなものです。
 古事記によると、伊弉諾尊
(いざなぎのみこと:日本書紀の表記/古事記の表記では伊邪那岐命)の妻である伊弉冉尊(いざなみのみこと:日本書紀の表記/古事記の表記では伊邪那美命)は、神々を生みましたが、最後に火神(ひのかみ)を生んだために火傷を負われ、死んでしまいます。伊弉諾尊は、黄泉国(よみのくに)まで追いかけ、妻を蘇らせようとしましたが、かないませんでした。帰路、伊弉諾尊は、黄泉国が穢(けが)れたところであったため、筑紫の日向の橘小戸の阿波岐原の海につかり、禊(みそぎ)を行いました。すると、次々に神々が誕生し、伊弉諾尊もすっかり清らかになりました。
 つまり、祓詞を唱えることによって、伊弉諾尊が禊を行ったと同じ効果が生じると考えられているのです。そのため、神事や神参りの前には、必ずこの祓詞を唱えます。
 現代の結婚式における”修祓の儀“では、斎主が祓詞を唱えたあと、大麻を持って左右左と振って祓います。一同も起立したまま頭を下げ、お祓いを受けます。

祝詞奏上

 祝詞は、前項でも述べたように、神々に奏上する言葉です。現存する最も古い祝詞は、平安時代の法律書『延喜式(えんぎしき)』に二十七編あり、これが現代の祝詞の原点となっています。祝詞は、人生儀礼や祭事など、祈願の目的や祈りの主体によって違うため、数限りなく存在します。祈願者の目的を聞いて、神職が祝詞を作ることもあります。
 祝詞の内容は、まず神名と神徳をたたえ、儀式の趣旨や内容を申し上げてそのことへの神の加護を祈ります。古代日本では、全身全霊を込めて申し上げる言葉は必ず神に通じるという「言霊信仰
(ことだましんこう)」を持っていたので、祝詞の用語には善美がつくされます。文体は宣命体(せんみょうたい)と呼ばれる平安朝スタイルの大和言葉で、文字には万葉仮名が使われます。韻律に富んでおり、荘厳な印象があります。
 結婚式の場合でも、斎主が神前に進み、二人の結婚を神に報告し、これからの幸福を祈る祝詞を奏上します。一同は起立し、祝詞を読み上げている間は軽く頭を下げて、拝聴します。

参考文献/「神道辞典」弘文堂、「神道のしきたりと心得」池田書店、「神事の基礎知識」講談社、「いま、知っておきたい神さま神社祭祀」主婦の友社

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