【湯灌-ゆかん-】
遺体を棺に納める前に、湯水で浄めることを湯灌といいます。現在は、ほとんどの方が病院で亡くなられるため、ガーゼや脱脂綿にひたしたアルコールで浄める方法にかわっています。そして汚物が出ないように処理されます。
しかし以前は湯灌という儀式は、一般的なものとして執り行われていました。遺体は、湯水で浄めた後、目と口を閉じ、姿勢を整え、男性なら髭を剃り、女性なら薄化粧をします。こうした一連の内容を行うのはかつてはごく近親の者の仕事で、愛する人ヘの最後の献身を意味していました。それがしだいに外部の人たちの手に移り、手洗い酒、身洗い酒等を手伝った人に出すようになりました。
かつては湯灌に使う水の汲み方や、使った水の捨て方にも作法が見られました。たとえば、湯灌に用いる水を汲みに出かけた者を、必ず誰かが後から呼びにいかなくてはいけない「声かけ水」や、湯をひしゃくで注ぐ時は、必ず「左ひしゃく」とすること、湯は日常のかまどではなく、庭で沸かさなくてはならず、湯を混ぜて適温にする際には、先に盥に水を入れておき、そこに湯を注ぐ「逆さ水」などの習俗がありました。また、浄め終わり残った湯は、床の下や薮かげや日陰に流す、あるいは穴を掘って流すといった作法は、日常の作法と全く逆の方法で行うところに特徴があります。湯灌は一種の儀式ではありますが、日常の場合との混同を避けるために、意識的に反対の動作行為を行うものと思われます。また湯が陽のあたらない所に捨てられるのは、物忌みの害を防ぐためであるとされています。
【平安祭典の湯灌式】
平安祭典では専用の湯灌車を常備し、湯灌式を執り行います。御遺体の全身を丁寧に浄め、洗髪、整髪の後、髭剃り、爪切り、脱脂綿の取り替え、そして丹念な旅立ちの化粧を施します。故人を慈しみ、肉体も精神も浄めるという、湯灌式本来の意義を踏襲していこうというものです。
【経帷子-きょうかたびら-】
経帷子とは、僧の姿になぞらえて、白木綿に経文を記した着物で、一般には死装束(しにしょうぞく)、また明衣(みょうえ)、浄衣(じょうえ)ともいいます。経帷子をつくるのは、昔は死者とゆかりのある女性、たいていは死者の姪や孫娘の役目で、なるべく多くの人の手によるのがよいとされてきました。その縫い方は何人もの人が同時に引っ張って縫う「引っぱり縫い」や脚絆(きゃはん)や足袋を片方ずつ別の人が縫い、糸尻はとめないでおく方法がとられました。
経帷子の着衣は、左前とし、頭巾(三角巾)を額に当て、俗説に言われる三途の川の渡し賃とも、死者の小遣いともいわれる六文銭の入った頭陀袋(ずだぶくろ)を首にかけ、手甲(てっこう)を付け、脚絆を巻き、足袋、わらじ、杖などで旅装束にします。ただし真宗では、必ずしもこの経帷子を着けなくてもよいとされています。 |